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クリエイターあがりのWEBディレクターが楽しく過ごすための「小屋」という方法

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ゲストライターの山田Uさんの記事をお届けします。山田さんは、雑誌のライティングから始まり、編集、WEBディレクション、WEBプロデュースと、クリエイティブ業界で20年以上活動してきました。そんな山田さんが考えるクリエイターあがりのWEBディレクターが楽しく過ごす「小屋」という方法についてご紹介!

WEBディレクターの仕事、大変ですね。

日々を楽しく過ごし、成長を実感して、周囲にも認められ、クライアントからは頼りにされまくり……、という方は、すばらしい。筆者が何か言えることなどありません。

しかし、どうにも毎日タイヘンで、いまひとつ楽しくないと感じている方のヒントになれば、ということで、ささやかな仮説 / 試論を述べてみたいと思います。

1.WEBディレクターの仕事と小屋の関係

もちろん、小屋とは比喩的なものです。いえ、本当の小屋でもいいのですが :-)

日々の仕事、あるいは会社を「本宅」としましょう。この本宅は、一般的に言ってなかなか過酷なものになりがちです。

まず、クライアントの課題を解決するという責務は、そもそも簡単なものではありません。簡単なものならば、クライアントは自分たちで解決してしまうはずです。当然、WEBディレクターもその持てる力をフルに発揮する必要があります。

現実として、そのクライアントも、誰もが気持ちよく仕事ができる相手とは限りません。

また、その課題解決には、通常、期限や予算がつきまといます。その他にも多くの制限があるでしょう。何から何まで自分の思うようにできるとは限りません。たびたび、不確実性を含んだトライや綱渡りが必要になります。これはリスクを好む豪胆な人には理想的シチュエーションかもしれませんが、筆者が観察してきた範囲では、一般的に言って「胃が痛くなる」状態でしょう。

課題に一緒に取り組む関係者たちは、もちろん心強い存在です。しかし、みなそれぞれの立場やおかれている現状や思いがあり、一筋縄ではいきません。うまくコミュニケーションできず、つい不毛な不満を抱えてしまった経験はだれしもが持っているはず(と思いたい)。

その他にもいろいろな要素があるでしょう。しかしいずれにせよWEBディレクターは、そんな状況のなかで成果を出さなくてはなりません。消耗しやすい / 疲れる / しんどい状態になりがちです。

特に、この記事のタイトルにある「クリエイターあがりのディレクター」には、余計につらいことなのではないでしょうか。

筆者は、「クリエイターとは自分の世界を作る人」と認識しています。作家やイラストレーターなどは分かりやすい例でしょう。その作品は、その人が作るもうひとつの「世界」です。デザイナーやプログラマーといった、ある種の課題解決のために働く人も、筆者はクリエイターだと捉えています。この人たちが作る各種グラフィック / UI / システム / コード……等々は、独自の物語や法則 / 構造 / 体系 / システム…… を持った、ある種の「世界」と言えると思います。

言い換えると、クリエイターを志した人は、こうした首尾一貫した世界を作りたいという欲望を持っている、とも表現できます。

そんなクリエイター気質を持っている人が、WEBディレクターになるとどうなるか。その仕事は、前述のようにラクなものではありません。根本では自分の世界を作りたいという欲求を持っているのに、現実はそれをさせてくれません。これは、構造的にストレスがたまる状況です。

そこで、小屋、です。仕事という本宅とは別に、自分だけの世界を構築することができる「小屋」を別に持ったらいい。制約が多く、また複数の人が関わり自分の思い通りにできない本宅とは別に、全てを自分でコントロールし、好きなように仕上げられる「小屋」。これを意識して作ることが、楽しさに、また本宅の仕事の成果にもつながるのでは。筆者はそう考えています。

小屋、というのは筆者の心の中の言葉です。より平易に言えば、サイド・プロジェクトとか、プライベートでの取り組みとか、生活のハリとか……。そんな言葉になりそうですね。

2.「小屋」の例

この小屋の具体例を挙げてみましょう。

最も一般的なのは、いわゆる趣味です。世の中では、いろいろな人がいろいろな趣味を作り出します。映画鑑賞や音楽鑑賞、ゲーム、習い事、将棋、釣り、料理、コレクション……なんでもありです。

よく働く人はよく遊ぶ、という言葉をどこかで聞いた気がします。それが本当かは判断がつきませんが、経験的に、趣味の世界で存分に楽しみ、かつ仕事でもいきいきとした人は多く存在するように見えます。ある方面でいきいきとして居られれば、もう一方にその余波があるでしょう。時には本宅からの「逃避」と見えることもあるかもしれませんが、それでもただただつらい本宅に押し流されて鬱々とした日々を過ごすよりはマシです。

「幸福な状況に身を置くと、創造的になる」という研究結果を耳にしたことがあります。この手の実験はどうも眉に唾しながら聞かないといけませんが、幸福な状況の方が人の活性は高まり、そして活動が増えればよりよいアイデアを得られやすい、というのは妥当な推論に思えます。

また、いわゆる趣味でなくとも、自分の世界は作ることができます。筆者が経験した、また見聞きした「小屋」も挙げてみましょう。

パーフェクトな作業用デスクを作る

自分の作業デスクを完璧な機能性を持った場所に仕上げる、という小屋の作り方です。コックピット、と言ってもいいかもしれません。

複数のモニタで作業することが簡単に効率を上げてくれることは、経験すれば一発で理解できます。マウスやキーボードも同様に、ストレスなく正確に扱えることは、思ったより重要です。さらに机や椅子や本棚といったハードウェアもそうですし、PCやスマートフォンの中身、ソフトウェアやその生産性のためのシステムを作ること……等々、自分にとっての最高の知的生産環境を構築することは、つまり職人の工房という小屋を作り上げることに他なりません。そして通常、誰にもジャマされません。これはクリエイターにとって、楽しく、かつ成果にも直結するプロジェクトなのではないでしょうか。

服にこだわってみる

これもやはり、自分が好きなようにできる場所、ということができます。ファッションにはまったく興味がない、という人もいるかもしれませんが、それでも、自分が着ている服に、脳は何かしらのフィードバックを受けているはずです。ほぼ常に視界に入り、肌触りや暑さ寒さを感じているからです。これをまったくの自分好みに仕上げるというのは、楽しい、自分だけのプロジェクトなのではないでしょうか。お洒落、という観点もいいでしょうし、機能性でもかまいません。要は、他人の視点ではなく、自分本位のスタイルを作り上げる遊びです。

また、服飾のすばらしいところは、単に見た目や快適さの問題ではなく、自分の「こうありたい」というイメージを具現化し、そして自分にインストールできることです。楽しい上に、自身のあり方を考えるきっかけにもなるプロジェクト、と言えると思います。

体力を取り戻す、体調を上げる

体のコンディションは、言うまでもなく楽しさに直結します。そこで、「体調を整える」という小屋を持つのもいいアイデアだと思います。週にn回のヨガが生活のハリになっている人や、月の走行距離を目標に立て取り組むランナーをたくさん知っています。あまり運動の習慣がなかった人にはハードルが高いことですが、それをクリアするアイデアはいろいろな人がいろいろなことを言っているはずです。そして少しでも楽しさを感じられたら……、プラス方向のサイクルができ、仕事にも生活にも良い影響があるはずです。

土曜日のルーティーンを作る

休日をダラダラと過ごしてしまうのは、実は疲れが取れない、という研究結果があるようです。しかし、なんとなく遅くまで寝てしまいそのままダラダラ、そして無為な休みに、という良くないループはありがちなことです。

そこで、決め事として、土曜日にすることを設定しておくという作戦があります。筆者は一時期、美術館や博物館巡りをルーティーンにしていました。上野の国立博物館で人間の営為の歴史を知り、西洋美術館で絵画の歴史を知り、科学博物館で……と、半年ほど続けたでしょうか。そのせいでいろいろなことに興味が湧き、本代がずいぶんかさんでしまいましたが……、そこで得た知見のいくつかは、日々の仕事の企画になりました。

3.「小屋」のポイント

この小屋というコンセプトに重要だと考えているのは、下記の2点です。

1. 他人の言うことを聞かない
2. 計画とログを残す

すでに述べてきたように、他人の言うことを聞かない、自分だけの世界を作る、というのは、クリエイターにとっては特に重要なことです。それでこそ、満足が得られるのだと思います。もちろん趣味によっては、初めは師匠について手習い、というものもあります。それは否定しませんが、そうした趣味でも、本当に楽しくなるのは、自分でアレコレその趣味について考えられるようになってからでしょう。その時、先達の知恵をお借りするのも重要ですが、楽しさという点では、自分だけで取り組むのがおすすめできます。答えを外部だけに求めていたら、それは「借り物の遊び」です。

また、まじめな人は、マニュアルや他人の言葉に影響を受け、「こうでなくてはならない」と思いがちです。あるいは、「なぜあの人は、私にできないコレができるのか」などと。これは自分の遊びをつまらなくする最大の要因です。人がどう思うか、というのは、この場合は問題ではありません。

計画やログというのは、ずいぶんビジネスライクですが、実はこれも、楽しさを作る要素であると筆者は考えています。映画鑑賞という小屋を持ったとして、例えばゾンビ映画のリストを作り、それを片っ端から見ていき、作品のログを残し、そのリストを眺めてニヤニヤする……という人を知っています。私の見立てでは、彼は生粋のクリエイター気質です。実際に、多くの素晴らしいデザインを世に出しています。そうした計画とログは、取り組みの質を高めてくれるはずです。それが楽しさの源泉のひとつになります。

計画など考えず、「とにかくやってみる」というのももちろん良いですが、おすすめは「とりあえず計画してみる」。そしてやりながらログを残し、さらに楽しい道を探す。経験的に言って、そのぐらいの姿勢が、小屋作りにはマッチすると感じています。

こうしたアプローチは、その取り組みをしている時に感じる「コントロール感」も高めてくれます。自分の行いに対して、自分でコントロールしていると感じることで、人はその行いにより積極的になり、うまくでき、楽しさを感じます。言い換えれば、自分で物事をコントロールしていると感じれば、ストレスは感じづらくなります(労働時間が多少長くとも、自分でコントロールしてれいればストレスにならない、という研究結果もあるようです)。

本宅の仕事は、自分でコントロールできる範囲は限られています。自分ですべて決定できる、というプロジェクトは存在しないでしょう。小屋なら、それができます。そしてクリエイター気質は、それを求めています。

このふたつ目のポイントを「PDCA」と捉えるとよりビジネスライクになりますが、その狙いはつまりより良い成果。自分が好きで行うことなら、それも楽しみに変わる、とも言えるのではないでしょうか。
さらに付け加えるならば、こうした行動は、その人の強みを見つけるのに役立ちます。

あるテーマに対して、どんな取り組み方をするのが自分に向いているのか。またそのテーマそのものは、どんなものが好きなのか。こうした思考と経験を通して、自分がどう働いたら良いかが明確になっていきます。

4.先人の知恵から

少し、ヤヤコシイことを書いたかもしれません。言いたかったのは

・もし今、楽しさを感じづらくなっていて、
・そしてもし仕事が生活の大部分を占めるようになっているのなら、
・自分の世界を作る遊びをしてみてもいいのでは。

……という提案です。

※もちろん、今、仕事に集中していて、それに手応えを感じているのならば、それは喜ばしいことです。あるいは、一切楽しさを感じられなくなったり、これまで自分が好きだったことも楽しく感じられなくなったら、それは休みを取るべきサインかもしれません。無理に動くのは禁物です。

夏目漱石は、『私の個人主義』という作品の中で、自分本位に生きることの重要さを説きました。この小品は学生に語ったもの、つまり何かの業績を上げることを期待されている人に向けたもの、と言うことができます。そんな性質のメッセージにも関わらず、自分の世界を作ることを勧めている、と捉えることができるかもしれません。

あるいは、歴史作家の塩野七生は、『キリストの勝利──ローマ人の物語』の中で、下記のように述べています。

すべての面で苛酷な現実の中でも精神のバランスを失わないで生きていくのは、苛酷な現実とは離れた自分一人の世界をつくり出せるかどうかにかかっている。

これはある中世の貴族が幽閉生活を強いられる、という極端なケースの話ですが、確かに、人にはそういう側面があるように思えます。

あるいは、小説家として人間という存在を直視し続けた開高健は、晩年になって、「もっと遊べ」というこの上なくシンプルな言葉を残しました。

近頃どうも楽しくない、と感じたら。少し、自分の「小屋」に閉じこもってみてはいかがでしょうか。

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