ダメと判断する前に WEB制作会社に100%の力を発揮してもらう方法
ゲストライターの山田Uさんの記事をお届けします。山田さんは、雑誌のライティングから始まり、編集、WEBディレクション、WEBプロデュースと、クリエイティブ業界で20年以上活動してきました。そんな山田さんが考えるアウトソーシング先との付き合い方についてご紹介!
WEB制作、WEB関連プロジェクトのアウトソーシング、難しいですね。
筆者も、仕事を依頼する立場として、さまざまなプロジェクトに関わってきました。そして、納期が遅れたり、望んでいたものができあがらなかったり、予算が超過したり、エイヤッとローンチしたり、最悪の場合、ギスギスしてプロジェクトが空中分解したり……。いろいろな「ダメパターン」を目にしてきました。辛い :-0
しかし、いつもうまく状況をコントロールし、成果をあげている人がいました。ある大手通信事業の「中の人」をやっていた頃の同僚、外部のWEB制作会社やコンサルタントに仕事を依頼する立場の人です。
筆者も同じ立場で働いていたわけですが、日々感心することばかり。多くのことを学びました。今は出世なさって、筆者などの手にはとうてい届かない高みに行ってしまわれましたが、これはその働き方が有効だったことの証明でしょう。そんな「腕利き依頼人」に学んだ、WEB制作会社に100%の力を発揮してもらう方法についてまとめてみます。
1.いかにアウトソーシング先にうまく動いてもらうか?腕利き依頼人の基本的な考え方
まずは、その腕利き依頼人の基本的な考え方を述べておきます(ただし、筆者の解釈であることをお断りしておきます)。
その核にあるのは、「いかにコミュニケーションの質を上げるか」という意識だったと考えています。
ひとつは、こちら側の脳みそにあるモノゴトを、いかに制作側の脳に伝達するか。当たり前と言えば当たり前ですが、これがカギになります。
次に、相手の脳にあるものをいかに理解するか、という点も同様に重視していました。当然ながら、一方通行でただただ要望を突きつけるだけでは、いいモノは作れません。制作側のアイデアや知見を引き出してこそ有効な問題解決につながる、というのが腕利きさんの意見です。
3つ目は、相手への信頼と信頼されるに足る自分のあり方、というやや曖昧な事柄です。腕利きさんは、シンプルに言えば「いい人」でした。お人好し、というわけではなく、どんな相手にも敬意を払い、きちんと話を聞き、受け止め、常に前向きに考えてプロジェクトを進めていました。けっして無理を通したり、身勝手なことをしたり、ごまかしたりしない人でした。そうして築いた信頼関係が、良いコミュニケーションを生む、という考えです。
2.腕利き依頼人の具体的な行動
腕利きさん、こうした基本的な考え方をしつつ、下記のような行動特性がありました。
情報を整理する
プロジェクトは、予算規模は小さくとも、たくさんの情報が行き交うものです。腕利きさんは、この情報をバラバラと相手に伝えたりせず、いつも自分で咀嚼し、整理し、構造化して、相手にわかりやすいようにしてから伝えていました。一方的に伝えて、「それは前に言ったはず」という態度をとるのを見たことはありません。小さな仕事でも、いつもRFP的にまとめたレジメを用意していました。伝える側の責任を全うしていた、と言えるかもしれません。その手法は、今にして思えば、人の理解に関する認知科学に適ったやり方、と思えます(この具体的方法は、また別の機会があれば)。
目的を伝える
「これをやって」と言う前に、「なぜやるか」を必ず伝えていました。そしてそれを、プロジェクトの途中でも度々リマインドしていました。確かに、この情報があれば、チームはより正確に考えることができると思います。また、モチベーションにもなるでしょう。一例ですが、申し込みを増やすためにフォームを改善するプロジェクトがあったとします。この時、「フォームの改善」から伝えたら、チームはフォームのことしか考えません。しかし、申し込みを増やすという目的から考えれば、「受付電話番号を大きく載せる」ことでも、より大きな成果が得られるかもしれません。これは野暮な例ですが、何かを話す前にそれを話す理由を伝える等、とにかく徹底していました。
会って話す
腕利きさんは、よく外出していました。その行き先は、アウトソース先。つまり依頼した側が受注側を訪問する、という構造です。大手の仕事、そしてWEB業界では、比較的少ないケースではないでしょうか。にも関わらず、腕利きさんは時間を使って会いに行き、直接メンバーと話すことを重視していました。会って話すことの有効性は、未だ無視できません。「単に関係者の人数は向こうの方が多いから」なんて言っていた覚えがありますが、やはりこれも、より精度の高いコミュニケーションを求めてのことだったと考えています。
率直に話す
回りくどく話すより、より直裁的に、要点をきちんと伝える、ということです。「率直なコミュニケーションが企業文化の一番の優先事項」とは、米ゼネラルエレクトリック社の伝説的経営者である、ジャック・ウェルチの意見です(『ウィニング 勝利の経営』よりhttps://www.amazon.co.jp/dp/453231240X/)。
これを実践していました。 もちろん、なんでもかんでも率直に話せばいいというものでもないでしょう。ただの「失礼な人」になってしまう可能性があります。前述した通りの、相手に対する敬意があってこその特性です。
「チーム」と認識する
アウトソース先のメンバーについて、受発注、カミシモの関係ではなく、ある任務を遂行するひとつのチームとして捉える、という意味です。「タバコ部屋で話すような……」と言っていましたが、公式の打ち合わせなどではない、アンフォーマルな会話で重要なコミュニケーションがなされる、という経験則です。受発注ではなく、チームであれば、こうしたコミュニケーションが可能になります。こうした認識が、「お互いにボールを拾いに行くような」関係を生んでいました。
完璧を求めない
腕利きさんが、制作チームの多少のミスや、至らなさを責めるようなところは見たことがありません。もちろん、ミスはない方がよいわけですし、受注側がいろいろ先回りして考えてくれれば万々歳です。しかし、多少の至らない点を責めるよりは、前向きに話した方がいい、というのが腕利きさんの意見です。完璧を期すとなると、スピードが落ちることになります。果たして今それが必要なのか。また、完璧を求めるあまり、チームを萎縮させ、コミュニケーションをスポイルしていないか。こうした点を常に意識していたように思います。
理詰めで戦わない
もちろん、仕事のコミュニケーションに論理性は必要です。しかし、仕事とは人がするもの。そして人は完全に論理的な存在ではない、常に感情を伴う、というのが腕利きさんの認識です。一般的に、発注側の方が立場が強いわけで、そこに輪を掛けて理屈で攻めようとすれば、相手は萎縮したり反発したりする。それは良いコミュニケーションを阻害する。モチベーションに悪影響がある。ある種の醒めた認識と言えるでしょう。
3.そんな「理想」みたいなものでうまくいくのか?
改めて振り返ってみると、腕利きさんは手間も暇も気もつかっていますね。発注する側としては、「金を払ってるのはこっちなんだから、そんなことしてられない」という感想を持ってしまうかもしれません。確かに、制作会社がすべてを完璧にお膳立てをしてくれたら、こんなに楽なことはありません。
しかし、腕利きさんの認識では「そんなに全て任せて安心していられる制作会社はそもそも存在しないし、そこに近づけるような良い関係を築いていくのが俺の仕事」となります(ぐうの音も出ない筆者です……)。
「そうしたいのはヤマヤマだが、忙しくて……」とも思います。しかしこれも、腕利きさんの解釈は「今は時間がかかっても、スムーズに進むような関係を築いておけば、将来は忙しくならない」と明解です。
WEB制作会社側としては、ちょっとめんどくさい相手と思えるかもしれません。コミュニケーションとは、当然ながら時間がかかることだからです。しかしこれも、率直に意見を出し合え、効率的にモノゴトを決めていけるような関係であれば、「最もやりやすい相手」と言えるのではないでしょうか。
単に、「甘い」という感想を持つ方もいらっしゃるかもしれません。「こちらが強く出ないと、制作側は手を抜く」という価値観です。要求を高くしておいて初めて、合格点が取れる、というような。確かに、そういう場面もあるかもしれません。筆者にはできないやり方ですが、もし十分な予算を確保できるならば、それも試してみたいとは思います。
4.個人的、腕利き依頼人メソッドの効用
もちろん、こうした考え方で全てがうまくいく、ということはないでしょう。相性やら予算やら環境やら人員やらが理由で、そもそも「無理」なプロジェクトは存在すると考えています。また、本当に、制作会社がダメな場合もあります。
しかし、多くの部分をこうした考えで解決できる、というのはその後の筆者の認識です。腕利き依頼人の仕事を近くで見て、自分の仕事のしかたを省みて、できるだけそこに近づくよう努めた結果、(今風に言うと)生産性は上がりました。腕利きさんにはほど遠いのですが……。
5.Googleプロジェクト・アリストテレスとの関連性
逆に言えば、その腕利きさんと筆者との、たった2サンプルの、うまくいったケースだとも理解できます。わざわざみなさんにお伝えするようなことでもない、と考えていました。
しかし、こうして記事にしたのは、Googleの、あるレポートがきっかけでした。
その名も、「Project Aristotle」━━プロジェクト・アリストテレス。
そのリサーチの目的は、"効果的なチームの特徴を明らかにする”ことです。
Google re:Work - ガイド: 「効果的なチームとは何か」を知る
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/
このレポートの結論、「チームの効果性に影響する因子」は、重要なものから順に、下記のようになっています。
1.心理的安全性
2.相互信頼
3.構造と明確さ
4.仕事の意味
5.インパクト
これを読んだ筆者は、この上位のふたつ、心理的安全性と相互信頼こそ、腕利き依頼人が作り出していたものだと気づきました。会って話すことも敬意を持って接することも、また不可能な完璧を求めないことも、どれも心理的な安全性と信頼を生み出すことにつながっていた、と思います。その他に挙げた行動特性も、なんらかの形でこの5つの因子につながるようにも思えます。腕利きさんとGoogleのリサーチ結果は、同じ方向性を指しているのではないでしょうか。
もちろんこのGoogleのレポートが唯一の正解だということはないでしょう。しかし、筆者らの経験は、多少なりとも普遍性があると捉え直し、今回この記事にしました。多少アウトソーシング先との距離を近づけても、特段損をすることもないはずです。もしご興味があれば、外注先も含めて「チーム」という関係性を作ることも視野に入れてみてはいかがでしょうか。