<話を聞き出す>20年以上かけて諸先輩から学んだ"聞く技術" -後編-
ゲストライターの山田Uさんの記事、後編をお届けします。山田さんは、雑誌のライティングから始まり、編集、WEBディレクション、WEBプロデュースと、クリエイティブ業界で20年以上活動してきました。そんな山田さんが目の当たりにした、ヒアリングの現場が凍りついた出来事とは?
前編 インタビューにまつわる、先輩のたったひとつの金言とは?
目次
1.書きながら聞く
流れていく会話を文字や図にすることで、言葉の本質を捉え、さらに突っ込んだ質問に繋げることができます。
聞きながらメモを取るべし、というのはよく言われることです。これは誰しもが行っていることでしょう。
さらに言えば、ホワイトボードのようなもので、お互いが確認できる状態で視覚化していく習慣も役に立つと思います。これは、とても優秀な先輩ディレクターに学びました。通常、しゃべる側が使うイメージがあるホワイトボードですが、その人は話を聞きながらも遠慮なく立ち上がり、相手の発言をわかりやすくまとめていました。話す側も、それを見ながら、よりわかりやすく話すことができますし、何より正確な理解につながります。例えばステークホルダーが多いプロジェクトの体勢を聞き出す時、体制図を書きながらしゃべってもらえば、抜け漏れをなくすことができるでしょう。ホワイトボードがない場所でも、やや大判のノートがあれば同じことができます。
これは良い具体例があります。以下のページをご覧ください。
医薬品研究者としての迷いが切り開いたキャリアチェンジ 「新しいことを取り入れ、会社を変えていけたら」 http://scienceshift.jp/growth-graph-02/
おそらくリクルーティングを意識したオウンドメディアの例です。よく見かける採用サイトでは、ふんわりとした先輩インタビューしかありません。しかしこの記事では、より具体的で、入社した後どう仕事をしていくのかがわかりやすいものになっていると思います。これは、記事中にある「成長グラフ」の効果ではないでしょうか。事前に準備されていたもののようですが、いずれにせよ、こうして発言が文字になっていると、対話はより重厚なものになっていきます。
もし書くのが難しい場合は、話をまとめてみるのも良いと思います。それまでのインタビュイーの話を聞いて、「今までのお話をまとめると、XXXXXXXXということですか? ポイントは、AとBとCですか?」などと話をくくってみます。もし相手が十分に言い尽くしていないと思えばさらに話が続くでしょうし、まとめが間違っていれば、訂正されるでしょう。いずれにせよ、話は充実します。
インタビュイーにとって一番腹立たしいのは、間違った解釈をされ、それが記事になることです。WEBのプロジェクトでも、正しい理解がなければ正しい方向に進まないのは言うまでもありません。
流れていく対話を、捕まえる努力をする
2.聞きにくいことは言い換える・適切な言葉を選ぶ
もし聞きにくいことを聞く必要があると思った場合、言い換えることで話が進むことがあります。
これは、あるベテラン新聞記者から学びました。その人は、相手の意見が腑に落ちなかったり、あるいは話をより引き出したい時に、あえてその人の反対の意見をぶつけていました。その際、真っ向から、
「それは違うと思います」
とぶつかることはせず、
「それとは反対の、○○○○という意見もあると思いますが……」
と、言い換えていました。当たりが柔らかくなります。相手もより深く説明をしたくなります。自説を強化する必要があるからです。
インタビュイーに反論すべき機会がそれほどあるわけではないと思いますが、聞きにくいことは第三者の言とする、という方法は、いつでも通用します。 さらに言えば、聞きにくいことのみならず、普通の質問でも、より答えやすい、的確な言葉を選ぶ努力をするのは、聞き手の責任だと思います。
質問に、より適切な言い換えがないか考える
3.相手が主役
インタビューもヒアリングも、相手が主役。相手ができるだけ話しやすいよう気を配るのも重要です。
P.F.ドラッカーは、「コミュニケーションは受け手が主役」と言い切りました。この場合の受け手とは、話を聞くこちら側と、捉えられそうです。しかし、この場合だけはドラッカーに反論したくなります。あくまで主役はインタビュイーであり、ヒアリングされる、課題を持った人です。
インタビュイーが不快に思うところがないか、質問の順番に戸惑っていないか、正しい質問をしているか、暑くないか寒くないか、飲み物は用意されているか、まぶしくないか……等々、できるだけ、快適にお話いただけるよう心を砕くのも、聞き手の責任だと思っています。
もっとも、本質は、話し手聞き手、という区別ではなく、どれだけ相手に気を遣えるか、ということかもしれません。
これを改めて意識したのは、あるITプロジェクトに、平たく言えばクライアントとして加わった時のことです。
ある暑い日のことでした。とは言えこちらはクライアントで、ほとんどオフィスから出ることはありません。涼しく過ごしています。そこに訪ねてきてくれたのが、プロジェクトのメンバーのみなさん。当然、汗をかきかき来社いただきました。ミーティングは無事進みつつあったのですが、場が凍ったのは、こちら側の女性社員が少し遅れて入室した瞬間。
「なんかこの部屋汗臭い……」とつぶやいたのです。
外から来社いただいたプロジェクトメンバーの皆さんは、顔を下げ恐縮するばかり。私も、逆の立場なら本当に申し訳なく、気まずい気持ちで一杯になります。しかし、こちら側のリーダーの、女性に向けて静かに放った台詞が空気を一変させます。未だに忘れられません。
「あなたは社内に居っぱなしでいいかもしれないが、みなさんは暑い中わざわざご足労いただいているんだ。それがわからないのか」
……来社してくれた方々に敬意をはらった、端正な言葉ではないでしょうか。女性社員の側も、恐縮していたようでした。「これが大人の気遣いというものか」と若い私は思い知りました。後で聞いたところ、汗臭いと言われたメンバーのかたは、「かっこいい、このリーダーさんのためなら頑張れる」と思ったそうです。
「相手が主役」という話とは少しずれてしまいました。しかし、私の学びとしては、気遣い、という点において両者は同じものです。いつでも、このリーダー氏のように、他者に敬意を払っていたい、と思っています。
全ての話し手に敬意を
4.感謝を伝える
取材やヒアリングが終わった後、その場についての感謝を伝えることは、非常に大事です。 話し手は、しばしば「今の私の話で良かったのだろうか」と思うものです。それを払拭するために、話していただいたことに関しての感謝を伝えましょう。聞くだけ聞いたら終わり、ではありません。もちろん、形ばかりの感謝では意味がありませんが。
時々、私もヒアリングをされる側になることがあります。その時にうれしいのは、聞き手の感謝の言葉です。「良いお話を聞けました」という言葉です。
話してくれたことへの感謝を伝える
5.まとめ
最後にもうひとつだけ付け加えるならば、全ての面で、みなさんの話についていけるよう努力することも重要だと思っています。深く、的確に話を聞き出すのは、全人格的作業だと考えています。知識や経験はもちろん、言語能力も、論理を扱う力も、分析する能力も、共感する心も必要です。
一朝一夕では成りませんが、日々、相手のことをより深く知りたいと思い、相手の思考についていけるよう努めています。もちろん、失敗ばかりの日々です。それでも、少なくとも相手のことをより良く知りたいという姿勢だけは保つ。そう思っています。